「蟻の城」全面修復 野外彫刻の原点示す

修復工事中の「蟻の城」(常盤公園で) 宇部市の野外彫刻のシンボルで、彫刻家・向井良吉さん(故人)の代表作「蟻の城」の修復作業が常盤公園の彫刻野外展示場で行われている。1963年から同じ場所に立ち続け、半世紀にわたってUBEビエンナーレ(現代日本彫刻展)を見守ってきた。修復は98年以来13年ぶりだが、さびや古い塗装を落とし、完成当時の黒々とした鉄の色が少しずつあらわになっている。

「蟻の城」は62年に制作された国内初の抽象的野外彫刻。向井さんの同じシリーズの中で最もスケールが大きい。宇部興産など地元企業から提供された鉄くず(レール、鎖、配管など)を溶接し、独自の複雑な立体構造を施して、たくましい生命力や人や生物の営みのはかなさを表現したという。産官学民の協働の取り組みで公害を克服し、市民運動をきっかけに文化的なまちづくりをした歩みなど、まさに宇部をテーマにしている。
市制施行90周年、野外彫刻展50周年の節目で、9月に行われるビエンナーレ本展を前にきれいにしようと、今月から取り掛かった。長年、向井さんの助手を務めた彫刻家の井田勝己さん(54)=東京造形大教授=が修復作業を監修する。現在、簡易補修の後、砂を高速で吹き付けてさびや塗装を除去するサンドブラストが行われ、49年前の素材の表面が出てきた。
この後、井田さんが細部をチェックし、修復、再度塗装され、25日ごろ、完了する予定。井田さんは「巻きやぐらの形であり、湖や風に向かって立っている作品は、癒やしではなく、頑張ろうというイメージ。基礎と鉄骨、上部のパーツの結合部分の劣化などを詳しく見て、直したい」と語った。
もともと鉄くずを再生しており、さびてできた穴などもあるが、ときわミュージアムでは、半世紀をかけて朽ちた部分も作品の持ち味と捉え、安全性を最優先しながら現状を保った修復を依頼している。「作品を通じて初心に戻るとともに、当時の姿を知っている人にも作品の意味を感じながら、若かりし頃を懐かしんでもらいたい」としている。
向井さんは、宇部の彫刻展に積極的に出品し、40年にわたって運営委員を務め、後に顧問に就任。市特別功労者として表彰された。彫刻野外展示場を自ら整地するなど、黎明(れいめい)期の企画展で中心的役割を果たした。昨年9月、92歳で逝去した。

カテゴリー:教育・文化2011年6月16日

写真注文はこちら
無料試読キャンペーン
宇部日報購読案内
サンデージョブ
サンデーうべ
サンデーワイド
サンデートレンド
Sundayうべ・おのだ
Sunday西京
サンデーネットワーク
全国郷土紙連合
新聞協会
選挙権を持つ君へ
アーカイブ
single